ずっと前に見た夢。

灰色の石で作られた、城壁が聳(そび)え立つ。

はためく赤い旗には、この土地を納める自治区を象徴する紋が入っている。中国、明の時代。城壁の扉に向かうまでの道は、そぞろに人が歩く。
下級の役人や商人が行き交う。しかし、城壁の扉につながる白い石がひかれた道の上は人が少ない。下級の役人がそこを歩いてはいけないからだ。
私はそこに立っていた。この道は、昔、たくさんの人が戦で死に、魂が凱旋するとも言われている。だから、一部の責務を担った人しか歩くことは出来ない。私は、親も代々官僚であった。私は科挙試験に合格し、この土地に帰ってきたばかりだ。過去の偉人が切り開いた道を、今度は私は守らなくてはいけない。
幼少期、親は私を可愛がってくれた。
父も母も、いつも私に学問を通して愛情を示してくれた。
いつも私は優秀と言われる自分に誇りを持っていた。
父と母が選んだ女性と結婚した。
白い肌、細い女性で、居なくなってしまうんじゃないかって、いつも不安だった。そして、私と無理に結婚して不幸せなんではないかと。
でも、いつも傍らで彼女は私に笑顔を向けてくれた。結婚してから、彼女のことが好きになっていった。
しかし、仕事に追われて、彼女と一緒にいる時間はほとんどなかった。
ある日、彼女が突然亡くなった。殆ど一緒にいられなかったのに、悲しみは募っていった。自分が官僚ではなく、もっと自由に彼女と過ごすことができていたなら、こんなに後悔しなかっただろうか。
彼女の形見の入った壺をずっと持っていた。墓に一緒に埋めるものだが、埋められなかった。
しばらくして、この自治区の財政難から端を発し、官僚の間で確執が起きる。私はが担ってきた仕事を共にした仲間に裏切られ、私が仕事をしている部屋から、3人が去っていった。
信頼していた仲間が去っていった。私は官僚としてやっていく生命線を絶たれた。味方は誰もいない。
家には帰れなかった。父と母に顔向けできない。
出世して、立派になる事が父と母の願いと思っていたから。
私は、亡き妻の形見の壺を持って、森に入り、小屋を見つけ、そこで暮らし始めた。
彼女はいないけど、初めて彼女と向き合った感じがした。
くる日もくる日も、彼女のことばかり考えた。
何年が過ぎただろう。ある日、自分の命が残り少ないことに気がついた。私は、壺を持って、庭の大きな木の下に腰を下ろした。
壺をから蛍のような光が湧き上がり、わたしの身体を包み込んだ。そして、ふわふわとわたしの身体を包み込むと、天に昇る間隔になり、目下に壺を抱える自分が見えた。緑と黄色の光とともに、私は上へ上へと昇っていった。